
妖怪好きにとって、三次は聖地である。
何と言っても稲生物怪録の舞台であり、あの湯本豪一コレクションを有する三次もののけミュージアムがある。
昨年、僕は三次を訪れ、もののけミュージアムを見学し、稲生物怪録ゆかりの地を散策した。
素晴らしい体験だった。
もののけミュージアムのユニークさは勿論のこと、魚の棚や石畳の町並みは古の時代を感じさせるに十分で、何より稲生物怪録に出てくる地名や寺院が今もあることに大変感銘を受けた。
この三次には本当に妖怪がいたのではないか、いや、今もいるのではないかとさえ感じた。
もし、僕が三次に住むことができたら、夕方この町を散歩することを日課としたい。
その際、市役所の皆さんには、大変申し訳ないが、業務として、夕方定期的に妖怪に扮して町の所々に潜んでいただきたい。
具体的には、河童に扮して馬洗川や西城川に浸かってもらうとか、烏天狗に扮して電柱に登ってもらうなどしていただくとありがたい。
水木しげる妖怪に扮するというのもいいかもしれない。
衣装を着るだけで子泣き爺に見える上席の方もいらっしゃるのではないか。
その方には子泣き爺の恰好で自販機の横に座ってもらうだけでいいし、ゴミ置き場の脇にねずみ男に扮した職員の方が立っているというのも絵になると思う。
もし、職員の方でどなたか年頃の娘さんがいて、本人の了解が得られるのであれば、猫娘に扮して通りを歩いてもらうのもいい。
京極夏彦氏の小説に登場する妖怪にもぜひ扮していただきたいが、石燕妖怪はやや難易度が高いと思われるので、そこは後日改めて相談ということでお願いしたい。
そんな夕暮れの三次の町を、僕は妻と一緒に、「ほら、あそこに河童がいるよ」とか、「角の自販機の横に子泣き爺がいたの気付いた?」なんて言いながら、散歩させていただきたい。
ぼんやり明かりの灯った町を、妖怪を探しながら歩く夕暮れの散歩は、どんなにエキゾチックだろう。
市役所の皆さんには、もののけミュージアムの妖怪キャストのようなクオリティは求めないが、もし、夕暮れの逢魔が時に、通りの角で妖怪キャストの方々に遭遇したらと想像するだけでゾクゾクする。
可能であれば、ぜひ彼らの指導を受けていただきたい。
町中を妖怪が徘徊し、その妖怪に遭遇するというシチュエ―ションにリアリティをもたせることができるのは、妖怪についての歴史と実績をもつ三次をおいて他にはない。
僕が三次に引っ越しして、この妖怪散歩プランを、僕自身がNPOとしてやるのもやぶさかではないし、ゆくゆくは稲生物怪録のような百鬼夜行パレードもやってみたい。
しかし、そう簡単ではないと思うので、まずは市役所の皆さんにお願いしたい。