
「三次に永住したい。家を建てたい。」
三次で過ごす2回目の夏のある日、突然そう言った私を、夫が本気にしていない顔で見る。
「賃貸が好き。好きな時に転居できるから。」と、私は結婚前から伝えていたからだ。
そんな私が三次に永住を希望した訳を説明したい。
私の親は転勤族であったため、幼少期から各地を転々としていた。
九州から北海道まで支社があり、小学校は3校通った。
私自身も全国転勤のある会社に就職し、それぞれの土地の違いをポジティブに楽しんでいたと思う。
そんな折、縁あって三次に住むことになり、このまちの虜になる。
三次の好きな点はいくらでも挙げられるが、ここでは2つお伝えする。
1つ目は人の温かさだ。
三次に来たばかりで道に迷い困っていた際、近くだからと快く目的地まで一緒に歩いてくれた人がいた。
妊娠中、私の大きなお腹を見て、「元気な赤ちゃんがうまれますように。」とエレベーターで声をかけてもらった。
スーパーで息子が泣いてしまったとき、「赤ちゃんは泣くのが仕事よね。」と優しく言っていただいた。
挙げるときりがないほど、私は三次で人の温かさに助けられてきた。
慣れない三次の生活で心細いときでも、初めての育児で不安なときでも、なぜだかここで暮らしていると孤独を感じない。
とてもあたたかくて、優しいまちだ。
2つ目は豊かな自然である。
三次は山々に囲まれていて、まさに風光明媚だ。
息子がご機嫌斜めなときでも、散歩に連れ出すとすぐに笑顔になるから不思議だ。
むちむちとした小さな手で、草や石、土などを触る顔は真剣そのもの。
眉をひそめ、唇をとがらせる顔は、彼が一番集中している時の表情で、豊かな自然に触れ合うといつもこの顔になる。
その横顔を見ていると、私は非常に贅沢な環境で子育てしていることを実感する。
一つ一つの葉の手触りがきっと違うのだろう。
両手に持った葉をじっと見比べて、さらに唇をとがらせる。
おそるおそる土に触れ、黒く染まった爪を訝しげにしばらく見つめた。
秋の風が吹き、葉がパラパラと雨のように落ちる。
息子は驚き、面白がり、目を輝かせて「はいはい」で落ちた葉を追いかけた。
少し外出しただけで、こんなにも実り多いひとときを提供してくれる三次は最高のまちである。
私はここで子育てをすることができて、毎日本当に幸せだ。
以上の理由から、私は三次に永住することを決意した。
ちなみに、私の夫は三次の出身ではなく、勤務先も他市である。
純粋に私が三次に魅力を感じたのだ。
県外に住む友人で「三次市」を正しく読む人はほぼいない。
どんな所かと聞かれた私はこう答える。
「十二回転居した私が、一番惹かれたまち。」