
三次は典型的な田舎で、山や田んぼに囲まれ緑の多いのどかなところだ。
特に私が住む地域は住人が年々減少し、保育所が数年後にはなくなるようで、最近は隣に鹿が引っ越してきたみたいだ。
少し離れた道路を走る車の音がこの町に音をもたらす。
通勤、帰宅時間に合わせて微妙に違うその音で時間の経過を感じる。
田舎は寂しいという人もいる。
でも私は人の目を気にせずのびのび過ごせて心地よいと思う。
私たち家族は、よく日が落ちてからみんなで散歩をする。
みんなが学校や仕事から帰り、夕飯を食べ、お風呂に入った後、虫よけスプレーをお互いにかけ合って、パジャマ姿で群がりながら家の周りを三十分ほど散歩する。
日が落ちたこの町は、心地よい涼しさと静寂とその季節特有の匂いで包まれ、無数の星を浮かべている。
私はこの散歩が好きだ。
せわしなく生きる日々にひと息入れて、エネルギーをチャージする感じがする。
日が落ちきると田んぼに囲まれた道はほとんど車が通らなくなる。
ぽつぽつと灯る家の明かりで、かろうじてひとけを感じることができる。
私たちはアスファルトの上に並んで寝ころび、星空を見上げる。
そして流れ星にお願いをする。
みんなの心が満たされたらおもむろに起き上がり家に帰る。
この習慣は家族に教わったもので、家族もまた今は亡き家族に教わったようだ。
時を超えて続くこの散歩は、まさに家族の絆を感じる瞬間でもある。
ある意味、この散歩は私たちの大切な財産だ。
この町で暮らしているからこそ価値のある財産であり、日々の生活の中で大切にしているものだ。
私がいつか新たな家庭を持ったら、この財産を次の世代に伝え、遺産として残したいと思う。
そして、この町の魅力に気づいてくれたらいいなと思う。
この町には、傷ついたり、疲れたりした心を癒す人と場所がそろっていると。
これからもこの場所で、心温まる思い出を積み重ねていきたい。