生まれ育った静岡県から、古民家に住んでみたい、と、縁あってたどり着いたのがここ作木町西野だ。ここで神野さんは、子どもと暮らしながら、古代農法による農業と、アクセサリーなどの作品創作活動をしている。
この家と地域に救われた
神野さんは出会うなり、「空気が違うでしょう。夜はフクロウの声しか聞こえない、自然の音だけなんですよ。本当にストレスフリーの毎日です。必要なものは全部ここにあるし、田舎に住むのはメリットしかない。」と、この地域のことを嬉々として話し始めてくれた。
2年前、神野さんは人生の岐路に立っていた。子どもを連れ田舎の古民家に住むことを決意。縁あってこの古民家を紹介された。リュックひとつ背負い、子どもの手を引き家の前に立った瞬間に、「大変だったこれまでを、この家と地域に救われた感じがした。」と言う。
地域の人たちが家族のように優しくしてくれるそうだ。たびたび様子を見に訪れてくれる人もいて、「朝はパジャマのままで出迎えることもあります。」と笑っていた。「そういう、気負わなくていい、かっこつけなくていい関係が、居心地がいい。」と神野さんは言う。この冬は、寒さで凍結した水道管を、近所の人が直してくれた。野菜や猪肉をもらうことも多い。「こんなに美味しいものが毎日食べられるなんて。」と言う。猟師が猪をさばくときには、神野さんも手伝うそうだ。ゆくゆくは狩猟免許も取得したいそう。
地域の魅力を届けたい
「地域で作っているものが、本当にいいものばかりだ。」と言う。米や炭など、神野さんは土地のものに惚れ込んでいる。地域の魅力を伝えることによって、全国の人に買ってもらえるような通販サイトを準備中なのだそう。
神野さん自身も、古代農法という、水やりも、草取りも、肥料散布もしない、いわゆる「ほったらかし」農法で、古代米やタカキビ、レインボーコーンなどを育てている。「これらを地域で育てて販売することで、労力を減らしつつ、価値を高めていける。そういう方法で、この地域の役に立ちたい。」と言う。
ここで暮らす中で、神野さんのやってみたいことは、どんどん増えていくようだ。
創作活動
神野さんの作品は、自然のものから作られる。山で拾った鹿の角や、葛から作る繊維、天然石。これらを使って、「ワンド」と呼ばれるオブジェや、翡翠の勾玉アクセサリー、焼き物など、オーダーメイドで作っている。市の鳥でもある「ブッポウソウ」がよく飛来するため、落ちている羽根を拾って、作品にこの土地ならではのアレンジを加えたりもする。
「こういった作品は、人によってはいぶかしがられるけど、ここの人たちは誰もそういうのがない。みんな、へぇ~!と関心を示してくれたり、いいね!とほめてくれたりする。受け入れてもらえた、と思えた。」神野さんの創作活動には、環境面でも精神面でも、この地域の支えがあるようだ。
師匠を慕って
「師匠と一緒に猪をさばきました。」「師匠の作る炭はすごくいい。」神野さんの話にはたびたび「師匠」が登場する。神野さんが尊敬と親しみを込めて「師匠」と呼ぶ、隣に住む70代の中村さんだ。
「引っ越してきてから、自分のことはすべてオープンに話し、困っていること、助けて欲しいことは、師匠や、地域の人に伝えるようにしている。」それが、神野さんが心がけていることだそうだ。また、地域の草刈りや行事にも参加する。神野さんが楽しみながら関わっていったことで、地域の中で「見守ってあげたくなる存在」になっていき、地域のみんなの「娘」になったのだろう。
最後に「師匠」こと中村さんにも話を聞いた。最初は照れくさそうだったが、いろいろと話してくれた。「師匠はノッてきたら熱く語り始めるから。面白いでしょう。」と神野さんは笑う。
神野さんが「師匠、今度、鳥小屋作りを手伝って!」と言っていた。飼っているインコの鳥小屋を作るのだそう。そのやりとりは、近所の人にお願いをする、というものではなく、まるで父と娘の会話のように、気軽で自然なやりとりだった。神野さんと師匠、地域との、普段の関係が垣間見ることができた瞬間だった。